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複数のがん早期発見検査 – 誇大広告から希望へ?

MCED検査(Multi-cancer early detection:複数のがん早期発見)は、幅広いがん発見のための、迅速で簡単な採血、非侵襲的な検査です。これはまだ臨床トライアル中ではあるもの、これらの検査は、以前考えられたよりもずっと、より臨床使用に近いと見られており、そして現在のがん発見の選択肢を置き換えるのではなく、補完するようなものになると期待されています。これが、1年前の展望でした。それでは、現在私たちはどうなっているのでしょうか?これらの検査が使用可能になるまで、あとどのくらいなのでしょうか。

このインタビューでは、PartenerReの欧州・アジア太平洋地域の最高医学責任者である、アヒム・レーゲナウアー医師が、MCED検査の現状、商業的に実行可能にするために必要な複数のステップ、そして生命再保険事業への影響について見ていきます。

QMCED検査は、がん治療薬の革命を起こし、それ生命保険業界に影響を与える可能性があります。これらの検査はどのように機能し、液体生検とはどう違うのでしょうか。

AR:「液体生検」とは、1種類の特定のがんを、組織サンプルではなく、非侵襲的採血を使用する検査の総称です。これらの検査は、死にかけのがん細胞が血流内に放出する、DNAやその他の断片のような、兆候のバイオマーカーを検出します。この技術は、ある種の腫瘍のスクリーニングから、診断や病期分類、治療に対する反応の評価、治療後の再発のモニタリング(監視)まで、臨床がん治療のあらゆる段階で応用が可能です。しかし、これまでのところ、液体生検検査の日常的な臨床利用は、対象となる数種類のがんを個別に評価・監視することに限られています。

MCED検査(Multi-cancer early detection test)は対照的に、一般的に症状が現れるずっと前の、一度に複数のがんのスクリーニングを意図したものです。1回の採血や、その他の尿といったような、体液サンプルの採取だけで呼応するバイオマーカーを検出することができます[1]。

Q:どのがんの種類が最もスクリーニングが効果的なのでしょうか。

AR: 複数の種類のがんのスクリーニングを一度に行うことは、1種類だけのスクリーニングから大きく変化しました。もっとも致死率が高いものか、最も発病率が高いものなのか、それとも早期治療で治療可能なものか…どのがんのスクリーニングを行うか選択するのは、専門家にとっても難しい選択です。この非常に複雑な決定を下すとき、3つの重要な側面を考慮する必要があります。

がんの種類によるスクリーニング

次が最初の質問です:早期発見によって、私たちがスクリーニングする癌の死亡率と罹患率の両方を減らすことができるのか?患者のための検査費用を正当化するのに相応しいほど、がんは一般的なのか?がん患者が利用できる有効な治療法があるのか?過剰診断と過剰治療を避けるには?そして、再検査までの間隔は?

最後の質問は、特に課題となっています。なぜなら、再検査の間隔は、がんの種類によって変動するためです。例えば、Galleriの検査[2]で検出された50種類の腫瘍のうち、、成長速度も攻撃性も、二つとして同じものはありません。進行の早いがんは一般的に、早期に症状が見られ、適時検出と効率的な治療のために、より早い周期でのスクリーニングを必要とします。より悪性の腫瘍に対しては、これに反して、進行が遅く、もっと長い期間、体内で症状が無い状態で潜伏しています。そのため、スクリーニングの間隔はもうすこし長い周期になる可能性があります。

しかしながら、課題は、これらの50種類のがんのうち、その多くの種類の進行率の明確なイメージが無いということです。これらのがんの自然史(いつ発症し、何の介入もない場合にどれくらいの速さで進行するか)についてわかっていることのほとんどは、現在有用なスクリーニング検査(乳がんではマンモグラフィ検査、大腸がんでは大腸内視鏡検査、子宮頸がんでは乳頭塗抹、肺がんでは胸部X線検査、前立腺がんではPSA検査)が利用できる数少ないがんに限られています。これらの特定のがんが、初期の段階でどのように進化していくのかまでわかってきたのは、まったくこの理由からです。

MCED検査を配備する方法を決定することは、様々な対象のがんが、それぞれに違った、望ましい治療の戦略があるため、より複雑です。1年に1度MCED検査を行うことは、数年に1度行われるものがもたらすような害と利益のトレードオフはないかもしれません。

検査でのスクリーニング

良質のスクリーニング検査は、高い割合のがんを検出することができます。これは、早期発見(高感度)に重要なことです。MCED検査は一般的に、がんが進行して血液中にがん細胞が多く排出されるにつれて感度が高くなる。
しかし、これはがんが最も効率的に治療できる、または完治できるための最初の段階です。MCED検査は、症状が無いの方に使用することが意図されており、より高い割合の早期がんを検出し、程度は低いものの、進行期のがんも発見できる可能性があります。

しかし、高感度であることは、検査が存在しないがんを検出してしまうような、誤検出に繋がる可能性もあります。検査ががんではない症例も正しく識別できるような、高い識別性も必要です。

最適なスクリーニングのアプローチは、高感度と高い識別性の両方を目標とするかもしれませんが、同時に両方を獲得することは不可能です。それに加え、MCEDスクリーニングは最も早期のがんの全てを識別しつつ、多くのがんを同時にスクリーニングすることから、その目標はつかみどころのないものとなる場合があります。さらに、MCED検査は大量スクリーニングが可能なほど安価であるべきで、理想的には体内の腫瘍を特定できるものでなければなりません。

対象セグメント(集団/個人)によるスクリーニング

ここでは、ポジティブな予測値またはPPVを見ていきます。これは、ポジティブな検査結果である人が、実は特定の種類のがんを持っている可能性です。これは、明らかに一般人口中の発がん率(有病率)につながりがあります。検査の高いPPVは、必ず関与せねばならない、不必要な診断検査と、精神・経済的な負担を減らすために不可欠なものです。バランス的には、MCED検査から最も利益を得られる対象の人口をどう定義するかに繋がります。それに加えて、検査に意義を持たせるために、対象者はフォローアップ治療を受けたり、その後の診断と治療に従う必要があります。

QMCED検査が相応に開発され、上記のような側面に即したとします。この検査は、現実世界で使用する準備が出来ているのでしょうか。

AR: いいえ、まだ完全には準備ができていません。未だ、回答することができない検査の疑問が多くあります。

MCED検査の最大の課題は、それぞれのがんに、診断と治療のフォローアップ手順がまだ定義されていないということです。これは、患者自身が直面するシナリオであると同時に、臨床医や民間支払者/保険者が、最初にがん陽性と判定された患者に対して直面するシナリオでもあります。この未定義の手順は、臨床・精神的有害性や、偽陽性、過剰診断、過剰治療による不必要な費用に加えられる、考慮すべき事項です。

肺がんを検出した、陽性のMCED検査の仮のケースを見てみましょう。胸部のCT画像で、腫瘍が小さすぎて検出できない場合はどうしたらよいのでしょうか?検出のしきい値は約2mmです。ですので、この例でのがんの兆候は偽陽性、またはがんが検出できるまで時間がかかる場合があります。がんが検出されたが、患者に症状が無い場合はどうするべきですか?見守ることが正しいのでしょうか、それとも先制治療が良いのでしょか?後者の場合、治療は手術なのか、X線治療なのか、それとも薬物治療または免疫療法なのか、それともその組み合わせなのでしょうか?どの薬物、投与量、何サイクルなのでしょうか?等々。

これは、臨床薬がまだ馴染みのない、ユニークな状況です。どのような場合でも、多くの診断・治療フォローアップの相談が患者を待ち受けています。これは患者にとって、MCED検診が全額カバーされていても、追跡診断のための高額な自己負担に直面するため、重要なジレンマを引き起こす場合があります。

さらに重要なのは、全てのがんに対して、基準となるアプローチがまだないことです。どのようなアプローチをするかは、がんの場所(部位)、組織学的サブタイプと病期によって変動し、かなり高度な手技が必要となることもあります。最も可能で現実性の高いアプローチを探すことは、臨床医、研究者、疫学者、データ科学者、行動科学者、IT専門家、そしてその他の分野[3]の専門家による学際的な努力を必要とします。

QMCED検査の経済面をどのように評価しますか。MCED検査が商業的に実用可能になるには何を必要としますか。

AR: MCED検査は、一筆書きのように多くのがんを一回でスクリーニングするという、完全に斬新なアプローチを示しています。そのため、だれを、そしてどのがんをスクリーニングするのか、という点から、先述したように、検出されたがんの診断と治療、そして再検査の頻度数々の要素というものまで、数々の要素によって決定されます。そして、理想的には、MCED検査は、がんの除外と排除の完全な経済的価値を定める必要があります。最初に、規制当局が検査を承認し、最善のシナリオでは、健康保険会社がMCED検査といかなる臨床検査の両方を費用負担するでしょう。

内科医としては、私は医療と保険の利点についてコメントするべきだと思います。
基本的に、検査は、一般の人々がアクセスできるように、リーズナブルに値段が設定される必要があります。もし検査が高額で、患者はその全額またはそのほとんどを自腹で支払わざるを得ない場合、需要は低くなります。しかし、これは対象の人々のスクリーニングの費用便益分析に繋がり、それ自体がコストであるとは言い難いです。

費用便益分析における主な検討事項[4]

  • 標準治療と比較して、様々ながんがより早い段階で発見される頻度(ダウンステージ効果)は?
  • 健康上の結果におけるMCED検査のインパクトは、寿命や、質を重視した寿命を含めて何か?
  • MCED検査対従来のスクリーニングによって検出されたがんに対する医療費の意義は?
  • MCEDスクリーニング検査は、現在のスクリーニングの範列に追加することによる短期的な経済的影響という点で、どの程度手頃なのか?
  • より頻繁な検査がより多くがんを検出する場合、再検査の間隔はどの程度が最善で、最も効率的なのか?

MCED検査の費用(例として、Galleri検査は1回につき約1,000米ドル)、検出するがんの範囲(Galleriの場合、50種類)、頻度(発がん率)と特に死亡率の改善といった要素は、誰が検査されるべきで、どの程度の頻度で検査を行うかを決定するのに軸となる要素のひとつです。

しかし、MCED検査の潜在的な総体効果のいかなる予測値は、がんの自然史について一般的に受け入れられている予測に基づく必要があることを強調したいと思います。もう一度にはなりますが、というのも、一部のがんを除くすべてのがんに関する確たるデータを入手するのはまだ困難であるからです。(上記の「がんの種類別検診」の段落を参照)。このMCED検査を使用した経済的費用/利益のトレードオフに関する複雑な計算は、こちらでお読みいただけます[5]。

Q:MCED検査が商業的に実用可能になるには、規制当局がまず承認をし、健康保険会社が負担をする必要があるということでしたが、その点はどうなのでしょうか?

AR: 昨年、米国で開発された少なくとも12種類のMCED試験法(下記図1参照) [6]のうち、GRAIL社のGalleriテストは、米国と英国で臨床試験が最も進んでおり、2022年7月に国民保健サービス(NHS)との提携による大規模試験が開始されました[7]

米国では、GRAILが2023年にGalleriについての規制当局(FDA)の承認を求めており、この検査は特別な規制下((臨床研究室改善修正またはCLIA)[8]で、様々な健康システムや健康保険[9][10][11]と提携し、処方箋とともに現在利用可能です。

図1:米国におけるMCED検査の例

その一方で、Galleri検査の使用は、厳格に定義された検査条件の下、米国や英国に限られています。GRAILは、GRAILは、直接の生命保険会社や第三者機関の管理者(TPA)も含めたパートナーシップを再保険会社に働きかけており、テストの助成金と潜在的な死亡率改善の実現を目指している。

まだどの検査も、規制当局からの承認を得ていないものの、FDAは同じ研究室[12]で開発、作成、処理されたMCED検査において、現在規制をかけてはいません。
これらの研究室内開発の検査(LDT)は、別々の規制(CLIA認証)の下にあり、医師の処方があれば利用可能です[13]

MCED検査が承認されることは、非常に複雑なことです。これは、拡大し、進化し続ける法規制によって統治されています。承認されるかどうかは、MCEDテストがどのような状況で実施されるかによります。例えば、検査がどのように検証されるのか?基準のがん治療スクリーニングの様式に追加されるのか、それとも代替となるのか?50歳以下の年齢層でMCED検査対象の平均のスクリーニングの人口は、十分な人数であるのか。経済的な影響や、検査の臨床結果はどのようになるのか?等々。

健康保険については、検査の感度ががんやステージによって変動したり、スクリーニングの利益や有害性が腫瘍の種類によって変動するような多種類のがん検査に申請する支払い者に適用できる枠組みが確立していません。

QMCED検査ががんの検出、診断や治療の結果に影響を与えるかどうかをいつ知ることが出来るでしょうか。

AR: どのがんが、死亡率を減少するのに適しているのかを検査するために、更なる研究[14]が必要になるでしょう理想的には、MCED検査がこれまで発見されていなかった個人のがんを同定する能力を評価する前向き研究を行うべきです。しかしながらこのような研究は、長期間を要します。代替は、無作為化試験(スクリーニングVS非スクリーニング)で、そうした試験で、進行がんから早期がん発見へのステージシフトがすぐに示される可能性が高いです。これは、様々ながんの直近のフェーズをより良く理解する(腫瘍の挙動)のに必要です。最善の観察研究は、スクリーニングされたがんと、スクリーニングされていないがんの死亡率を、何年もかけて比較することです。

しかし、MCED検査であっても、がんの死亡率に減少が見られるまで、数年かかる場合があり、これは、生命保険会社にとって非常に重要です。規制当局、健康保険会社とがん専門家は、これらの新しい技術のアプローチを、生存研究を10年近く待つことなく進行するための新しい枠組みの定義付けにおいて、重要な役割を担うことになるでしょう。

Q:最初にMCED検査が規制当局の承認を得るのはいつになると予測しますか。

AR: 私の個人的な意見では、早期にMCED検査が公共で利用可能になることはないと思います。すなわち、おそらく2年以内程度で、検査結果が見れるようになるはるかに前に、承認と償還の決定のために規制当局に提出されるでしょう。需要は高くなるであろうことから、これはがんスクリーニングの新しい時代の始まりとさえなる場合があり、一般市民と、これらの検査について説明し処方する医師を教育するためのキャンペーンが必要とされるでしょう。

その通り、私たちは同様な状況を経験したことがあります。一度PCA検査が前立腺がんの診断後の経過観察で承認された時、PCAは迅速にスクリーニングの申請もしました。PSA検査が前立腺がんの罹患率、病期分布、死亡率に与える影響は大きいものでした。しかし、PSA検査によるスクリーニング率はリアルタイムで追跡されておらず、PSA検査と前立腺がんの転帰の変化との関連については、遡及的に集計する必要がありました[15]。

Q:MCED検査はどのように生命保険業界に影響を与えるでしょうか。

AR: 私自身の評価としては、中期において、MCED検査が生命保険の商品の価格設定やクレーム、査定に重要な影響を与える可能性があると考えています。重症(CI)ポリシーは、最も影響を受けることになるでしょう。

MCED検査がどのがんのスクリーニングに成功するかによって、価格設定は、治療の成功によって調整できるがんの死亡率改善を反映するための調整が必要になる場合があります。

査定では、MCED検査が臨床的調査なしで陽性の結果が出た個人をどうフォローアップし査定をするのか、または家系で発がんの歴史があるにも関わらず、陰性のMCED検査結果が出た検査対象者の対応をどうするのか、という点において、満足のいく回答がありません。もしMCED検査が、医師による処方箋無しで提供され、また、生命保険、あるいはCI保険の申し込みの際に要請の結果が公表されない場合、かなりの流れに反する選択に直面するかもしれません。

また、液体生検を予測的遺伝子検査と同列に扱うべきかどうかという議論もあるでしょう。しかし、私の見るところ、MCED検査は予測検査ではありません。MCED検査は、すでに存在する微小がんを検出し、その位置を特定するだけに留まります。

次の挑戦は、どのがん保険金が、CIポリシー下で対象にあるかということに基づきます。
これは、生命保険会社が、現在のように、組織生検による確定診断ではなく、標準化されたMCED検査によって得られた明確な癌シグナル陽性に基づかずに対象を定義し始めたら、明らかになることでしょう。CIポリシー下での更なる保険金の側面は、保険金の定義によっては、より早期の支払いとなるかもしれません。最終的には、保険料はより短い期間で支払われることになります。MCED検査の時代では、更に、今までに診断されたことのない非浸潤がんも、現在はCI保険金の対象となる場合があります。

したがって、生命保険会社は臨床知識の増加よりも先を急がない方がいい場合が多くあります。そうは言っても情熱は目に見えるものであり、私たちはスタートアップ企業が対し、彼らが提供するMCED検査と繋げられる新しいアイデアをもって再保険会社にアプローチをしているのを見かけています。

 影響評価に関する質問

図2:生命保険/再保険業界への影響を調査するための質問

現在、MCED検査が生命保険商品に影響を与える様々な可能性について議論しています。健康保険会社についても触れる必要があります。もちろん、彼らはこれらの課題により早期に向き合う必要があります。というのも、診断検査や治療によって高騰する追加費用の矢面に立たされるのは、健康保険会社だからです。そしてもう一度、中期的には、早期検出によって、末期がんを減らし、高額の治療の需要を減らすことが出来るため、MCED検査の費用は相殺される可能性があります。

MCED検査は、早期治療と死亡率改善の高い可能性とともに、がんスクリーニングにおける重要な発展を見せるでしょう。しかしながら、上述した多くの疑問に取り組む必要があります。PartnerReは、これらの進展の経過を観察していきます。

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当社の専門家は、この先数年で関連があり、持続可能な製品を保険会社が作成できるよう、のソリューションを常に考えております。もしこのトピックについて、または新しいがん検出の現状に対するソリューションについて当社の取引先の一社とお話になりたいという場合は、お問い合わせください。

アヒム・レーゲナウアー医師、欧州・アジア太平洋地域最高医学責任者、生命&健康

記載された意見はあくまでも筆者のものです。本記事は、一般的な情報、教育および議論のみを目的としたものです。法的または専門的な助言ではなく、PartnerReまたはその関連会社の見解、意見または見解の全部または一部を必ずしも反映するものではありません。
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