糖尿病の有病率は世界的に増加の一途をたどっており、現在では最も急速に増加している患者群となっています。通常、糖尿病患者は命にかかわるリスクが高いとは考えられていません。多くのケースにおいて、保険引受ガイドラインにもとづき、保険の申請は却下されています。
というのは、悪いニュースですが、 今日は良いニュースについてお話ししましょう。
革新的な新薬とデジタル技術の進歩という2つの重要かつ同時に進行する変化要因は、糖尿病管理を新たなそしてよりポジティブな時代へとシフトさせ、糖尿病患者の予後と生活の質を大幅に向上させ、新たな生命保険の引受と商品開発機会への道を切り開いています。
糖尿病は主要かつ進行中の社会問題です。糖尿病の世界的な有病率は1980年の4.7%から2014年には8.5%に増加しています1(図1)。なお、この数値には人口の2-3%と推定される、糖尿病であるとまだ診断されていない患者「サイレントダイアベティック」は含まれていません2。1980年から2014年までの期間において、糖尿病の有病率はほぼすべての国で肥満の有病率と並んで増加しており2、高所得国に比べて中低所得国における上昇率が高くなっています1。
図1: 1980年から2014年までの世界の糖尿病有病率の地域別複合グラフ。 出典: WHO1.
図2に示すように、糖尿病は男女ともに中高年でより高い死亡率につながります3。これを失われる寿命の年数に換算してみると、糖尿病を患う50歳の男性は平均して、糖尿病でない人に比べて平均寿命が6年(喫煙者の場合10年)減少しています。死因は主に血管性、すなわち動脈内に形成されたプラーク(早期アテローム性動脈硬化)による心臓発作や脳卒中です。
図2: (a)糖尿病を患っている/いない男女の推定生存曲線、(b)糖尿病によって失われた寿命の死因別推定年数。高所得国を中心とした複数の国のデータ。出典: NEJM3。
糖尿病患者の死亡率は非糖尿病患者に比べて高いにもかかわらず、糖尿病患者の死亡率(主に高所得国のデータ)は着実に改善しています(図3、図4)。例えば、2型糖尿病患者の全死因死亡率は、1995年から2013年の間に10年ごとに15~40%改善しています4。
糖尿病の合併症を発症する率(罹患率)も改善されています。例えば、米国では1990年から2010年の間に糖尿病に関連した心臓発作は68%、脳卒中は53%、切断は52%減少しました5。同様の期間に、イスラエルと南ドイツでは網膜症と失明が40〜50%減少しました4。
図3: 米国男性の糖尿病および非糖尿病患者の3つの期間における年齢別年間全死因死亡率。糖尿病患者では、時間の経過とともに明らかな改善が見られ、非糖尿病患者のそれを上回っています。女性についても同様の結果が得られました。出典: Gregg et al.6。
図4: 2型糖尿病と診断された集団における全死因死亡率の推移。このデータは図に示された国で死亡率の改善が続いていることを表しています。出典: Gregg et al.4。
“弊社は保険会社と協力し、糖尿病患者のための革新的な生命保険ソリューションを開発しています。”
糖尿病治療・管理の焦点は、スルホニル尿素(メトホルミン)やインスリン、食事療法で血糖値をコントロールすることであり、これらにより前述のようなポジティブな傾向をもたらしています。
従来から続く医療の進歩からデジタル技術のブレークスルーに及ぶ近年のいくつかの重要な変更要因は、その傾向を加速させています。実際、すでにいくつかの効果が現れています。例えば:
各糖尿病患者の個々の特性に合わせて治療を行うことは、この疾患の異質性に関する最新の研究により、間もなく新たなレベルに到達する可能性があります。
いくつかのスカンジナビアの研究8は、糖尿病は1型と2型よりも異質であることを示しています(表1)。これらの研究では5つの糖尿病の「クラスター」が特定されています(表2)。これにより、間もなく、糖尿病に対してよりターゲットを絞ったモニタリングおよび治療といった新たな可能性が開けることが期待されています。例えば、糖尿病性腎症のリスクが著しく高いクラスター3の患者は、クラスター4の患者よりも詳細に糖尿病の進行状況をチェックすることができます。これらの予備的なカテゴリについては、より大規模な集団研究による裏付けが必要ですが、初期の適応においては見込みがあることを示しています。
1型 | 2型 | |
年齢 | 主に子供 | 成人 |
兆候 | 突発的 | 段階的 |
割合 | 5% | 90% |
原因 | 自己免疫 | 遺伝、肥満、生活習慣 |
メカニズム | インスリン分泌低下 | インスリン抵抗性 |
治療 | インスリン | 食事療法、メトホルミン、インスリン |
表1: 現在の糖尿病の分類は1型および2型に分類されています9。この区分は治療プログラムに影響を与えます。出典: PartnerRe 社によるまとめ。
新しい糖尿病群(クラスター) | 既存の糖尿病分類 | 新しいサブグループ | 特有の特徴の例 |
クラスター1 | 1型 | 自己免疫性糖尿病(SAID) |
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クラスター2 | 2型 | インスリン欠乏糖尿病 クラスター1に類似 |
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クラスター3 | 2型 | インスリン抵抗性糖尿病 |
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クラスター4 | 2型 | 肥満関連糖尿病 |
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クラスター5 | 2型 | 加齢関連糖尿病 クラスター4に類似 |
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表2: : 糖尿病の現在の2つのカテゴリ(1型および2型)9は、5つのカテゴリに分類することが可能です。この考え方は糖尿病の治療と管理を行う上で、より「個別化された医療」 というアプローチを効果的に可能にし、糖尿病患者のための治療プログラムを大幅に改善するのに役立っています。出典: PartnerRe社によるまとめ。
技術の進歩により、糖尿病の死亡率と合併症に関連した罹患率が、新たな段階へと改善されることが期待されています。
最近までほとんどの糖尿病患者は1日に4~8回、断続的に指先穿刺を行い、血糖値を測定していましたが、変化はすでに始まっています。近年、皮下センサーを備えた最新のデジタル技術が劇的に進化しており、今やこの技術により、糖尿病患者がより便利に、かつ指先穿刺法による痛みや血液を伴わない方法で血糖プロファイルをモニターする新たな可能性が提供されています。
現在、デジタル血糖モニタリングシステムには、リアルタイムの持続グルコースモニタリング(CGM: Continuous Glucose Monitoring)とフラッシュグルコースモニタリング(FGM: Flash Glucose Monitoring)の2種類があります。CGM技術は現在1型糖尿病にのみ使用されており、1型と2型糖尿病の両方に使用され、要求に応じてのみ血糖値を測定するFGMに比べ、より信頼性が高いと言えます。
どちらのモニタリングシステムも、最終的には病気になった膵臓に取って代わるオープンループシステムへの中間的なステップと見ることができます(下記の「次のステップは人工膵臓?」をご参照下さい)。
先日、メドトロニック社がIBMのワトソンテクノロジーをベースに開発したCGM「ガーディアンコネクト」がFDAに承認されたように、これらの技術と人工知能の統合が大きな一歩を踏み出しました。このシステムの人工知能の要素は、患者のデータを同じような血糖プロファイルを持つ糖尿病患者のデータと比較することで、非常に高い精度で血糖値を予測することを可能にします。
このような新しい技術力を背景に、栄養や生活習慣に応じて自動的に血糖値を監視し、インスリンの投与量を調整する人工膵臓装置システムの開発に向けた素晴らしい研究が進められています。
近い将来、従来の医療の世界と並行してデジタルの世界(図5)、例えばセンサー、送信機、インスリンポンプ、スマートフォンアプリ、ならびに身体およびその他のバイタルサインを測定するウェアラブルデバイスやスマートウォッチが出現することが期待されています。
図5 : 人工知能による糖尿病管理。人工的に完全にデジタル化された膵臓が実現する未来の図解例。センサーとウェアラブル、スマートフォンとカメラ、コネクテッドデバイス、遠隔医療、クラウド技術、ならびにコグニティブAIで構成されるオープンループシステムを描いています。出典: PartnerRe社
このように、糖尿病の死亡率と合併症に関連した罹患率は、代謝調節と治療法の改善によって大幅に減少するでしょう。
同時に、デジタル技術の利用が増えることで、アンダーライターは(データ規制と被保険者の契約の枠組みの中で)条件体の生命保険の引受のための相当量のデータを得ることができるようになります。
引受: はじめに、生命保険商品は死亡リスクの低下を示すデータから利益を得るように見えますが、障害補償や疾病補償のような医療保険商品の引受変更実施の際には、十分な経験が得られるまでの中期的な期間には注意が必要です。
商品開発: 継続的な保険引受モデルは既に実現可能であり、被保険者との定期的な対話や、例えばウェルネスプログラムや健康的なライフスタイルのためのコーチングとの統合的なリンクなどを含んでいます。本稿で詳述した進歩により、糖尿病患者向けの革新的でダイナミックな引受商品を開発する機会が生まれました。再保険パートナーは、この点において支援することがでます。糖尿病患者向けの継続的な引受のための報告オプションの例は表3で確認できます。
セールス&マーケティング: これらの変化は販売の見通しが明るいことを示しています。保険料は糖尿病患者にとってより魅力的になり、これまでは断られていた症例も、ローディングや保険適用範囲の段階的な拡大などの制限の有無にかかわらず、受け入れられる可能性が高くなっています。
レポートの内容 | 保険料割引 |
活動、食事、体づくりの自己申告(最小割引@一定) | 0-5% |
ウェアラブルによるアクティビティトラッキング(中程度の割引@一定) | 7-10% |
血液報告書-HbA1c値の提出(より高い割引@一定) | 15-20% |
CGM(AI連動、リアルタイムおよびダイナミック)と連動した高い割引 | 最大50% |
表3: 目前に迫る新技術による糖尿病管理のツールキットが可能にした、継続的生命保険商品におけるレポーティングオプションの図解例。保険料割引率はあくまでも可視化を目的としたもの 。出典: PartnerRe社
もちろん、他の生命保険および医療保険商品と同様に、これらの傾向は世界的な糖尿病の罹患率と肥満のパンデミックの負の傾向と併せてモニターする必要があります。
自分が病気になるとは思っていない患者層にとって、これらの複合的な進展は、引受の否決と高額な保険料の時代から、保険の引受、改善されたリスクマネジメント、新しく革新的な保険商品を提供する新しい時代へと我々を導くものです。これらの変化は、初期には高所得国にのみ適用される可能性が高いと考えられますが、損失が減少し、そのメリットがよりよく理解されるにつれて、より広く導入されることが期待されます。
これらの前向きな進展は、糖尿病患者に明るい未来を提供し、生命保険会社がより被保険者との関係を深めるためのユニークな機会を提供します。
弊社のライフ&ヘルスチームはこれらの進歩を注意深くモニタリングしており、それに応じて適切な時期に PAR メディカルアンダーライティングマニュアルを調整します。
近日中に公開:PAR V2:0
我々は現在、クライアントや地域のパートナーと協力し、糖尿病患者のための革新的で新しいプロダクトソリューションを提供しています。
これらの保険商品を弊社と共に試験開発するためのパートナーシップに興味をお持ちの方は、是非ご連絡ください。
Chris Shanahan
President, US Life
chris.shanahan@partnerre.com
André Piché
Chief Business Development Officer Canada, North America Life
andre.piche@partnerre.com
Harald Braun
Interim CEO, Life & Health Asia Pacific
harald.braun@partnerre.com
Victor Osuna
Representative Officer of Partner Reinsurance Company Ltd. Oficina de Representación en México, Life & Health
victor.osuna@partnerre.com
Gilles Thivant
Head of French Life Market, Life & Health EMELA
gilles.thivant@partnerre.com
Lourens Fourie
Life Market Head, Key Accounts, Life & Health EMELA
lourens.fourie@partnerre.com
Dr. Achim Regenauer, Chief Medical Officer, PartnerRe
Editor: Dr. Sara Thomas, PartnerRe
この記事は一般的な情報、教育、ディスカッションのみを目的としており、PartnerRe社またはその関連会社の法的または専門的なアドバイスを構成するものではありません。
1WHO, Global Report on Diabetes (2016), page 27. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/204871/9789241565257_eng.pdf;jsessionid=C5BD97389271E13A4DAD6228A09B35B5?sequence=1
2ESC (2019), “Global Statistics on Diabetes” https://www.escardio.org/Sub-specialty-communities/European-Association-of-Preventive-Cardiology-(EAPC)/News/global-statistics-on-diabetes
3N Engl J Med 2011; 364:829-841; https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1008862?query=recirc_curated
4Gregg, E. W., Sattar, N.& Ali, M. K. The changing face of diabetes complications. Lancet Diabetes Endocrinol.4, 537–547 (2016). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27156051
5Gregg, E.W. et al. Changes in Diabetes-Related Complications in the United States, 1990–2010. N Engl J Med 2014; 370:1514-23. DOI: 10.1056/NEJMoa1310799.
6Gregg, E. W., et al. Trends in lifetime risk and years of life lost due to diabetes in the USA, 1985-2011: a modelling study. Lancet Diabetes Endocrinol 2014;2:867–874. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25128274. Graphic also displayed in https://care.diabetesjournals.org/content/40/10/1289.
7https://spectrum.diabetesjournals.org/content/22/2/92
8For example: Ahlqvist, E. et al. Novel subgroups of adult-onset diabetes and their association with outcomes: a data-driven cluster analysis of six variables. Lancet Diabetes Endocrinol 2018;6,5:361-369 doi: https://doi.org/10.1016/S2213-8587(18)30051-2. https://www.ludc.lu.se/article/paradigm-shift-in-the-diagnosis-of-diabetes
9Type 1.5 diabetes is a non-official term sometimes used for a rare form of type 1 diabetes known as Latent Autoimmune Diabetes in Adults (LADA) which has slow onset and is diagnosed during adulthood, as are most cases of type 2 diabetes.