All Articles PartnerRe Perspectives Previous Article

デジタルヘルス – 生命保険会社の光と影

保険事業者にとって「デジタルトランスフォーメーション」または「21世紀のオイル」ともいえるデジタルヘルスは、ここ10年ほど大きな話題になっています。では、デジタル化の機会は十分に受け入れられ、ヘルスデータの大きな広がりは個人や保険会社・医療システム・生命保険会社の利益のために活用されているのでしょうか。アヒム・レーゲナウアー博士の見解によると、この変革はまだほとんど進展がみられていないとしており、ここではその理由を説明しています。

ポジティブな点として、生命保険会社はデジタル化された豊富な健康データを活用してリスク分析を行っています。また、医療保険引受テクノロジーを統合した販売プラットフォームなどを採用しています。一方で、多くのデジタルイニシアティブはアイデアやテストの段階にとどまっています(例えば、ウェアラブルなど)。それはなぜでしょうか。データそのものとその利用方法に関する問題、主要な関係者間におけるデジタル化の進展状況のずれ、デジタル化をめぐる戦略に関する点など、いくつかの理由が(重複して)あると考えます。

個人固有の健康データは、損害保険のデータとは根本的に異なり、扱うのが比較的困難な多くの特徴を持っています。(1) 個人的で機密性が高いこと、(2) 厳しい法的要件の対象となること、(3) 個人の健康は非常に複雑で動的であり、決して静的なものではないこと。仮に被保険者の健康状態を完全に分析することができたとしても、ほんの数秒後には体内で起こる生物学的な変化(例えば代謝や循環など)に合わせて健康指標が変化することもあります。したがって、損害保険と同様のデジタルソリューションを導入することはできません。個人レベルでの健康データへのアクセスや活用には限界があり、それを踏まえた上で前進していくためには、これまでとは違う考え方が必要です。 この点は後ほどお話しするとして、その他の関係者はどうなのでしょうか。

ヘルスケアシステムにとってこれまでのデジタル化の進展は、気が遠くなるようなものでした。それはなぜでしょうか。多くの利害関係者が互いに連携をとることなく活動しており、各々利害関係も大きく異なり、複雑な相互関係があることが多いことに加えて、医療制度は他の産業に比べてデジタル化へのアプローチが保守的になりがちで、変革をすることへの金銭的なインセンティブがほとんどない傾向にあります。

しかし、医療制度内のデジタル化は中期的に劇的に加速し、新しく持続的なものになると私は考えています。なぜでしょうか。それは人口高齢化、医学・技術の進歩、人材不足、そして現在進行中のSARS-CoV-2パンデミックにより、各国の医療制度にかかる財政難・予算の圧迫が急速に高まっているからです。

デジタル世界に詳しい個人や被保険者は十分に技術に精通し、常にオンラインかつ複数のデジタルチャネル(オムニチャネル)で活動しており、デジタル化されたソリューションに大きな期待を寄せています。仮にその期待に達しなかった場合や信頼が失われた場合には、商売上のパートナーを変更するでしょう。

前述のように、生命・医療保険に関してはヘルスデータにかかる制限を前提に進歩を遂げています。しかしながら消費者の視点から見ると、多様な商品・免責事項・契約条件など、当業界が対処すべき問題はまだ残っています。ほとんどの商品には主に販売・契約と請求の2つのプロセスがあり、どちらも混乱や失望を招く可能性があります。さらに、消費者は悲観的な思考/出来事や確率に焦点を当てなければなりません。消費者の期待を考えると、私たちの業界は実質的な変化がなければ衰退していく危機にさらされているとさえ言えるでしょう。

そのため、私たち生命保険会社は、最もやるべきことが多い当事者であると思われます。では、どうすれば顧客の期待に応え、顧客の失望や混乱を回避し、よりポジティブな領域へと移行し、そしてデジタル世界で競争力を維持するためにデジタルをフルに活用することができるのでしょうか。その答えは、新しいデジタル販売チャネル、デジタルマーケティング、自動化されたプロセスの追加だけではなく、より革命的なシフトへの道を歩むことだと私は考えています。

自動車製造産業は、その可能性のある道筋の一例を示しています。自動車コングロマリットは、元のベース製品である自動車以上のものを提供しており、複数の問題を解決することで顧客を支援しています。例えば彼らは、融資・メンテナンス・カーアシスタンスサービスから自動車保険に至るまで、モビリティのバリューチェーン全体を消費者に提供しています。このように広く、積極的でパーソナライズされたアプローチにより、顧客との接点を増やし、モビリティに関連する様々な課題に対するソリューションを提供しています。

生命保険会社もこれを実現できるでしょうか。保険金の支払いをほとんど受動的または反応的に行うのではなく、積極的なプレーヤーになること、すなわち、より健康的なライフスタイルのための継続的なアドバイスを提供したり、それを保険料の引き下げに繋げるなど、被保険者の健康を積極的に管理することが求められると考えます。医師やヘルスデータの機密性および規制と競合することなく、このサービスを提供する方法はいくらでもあります。これは常に変化し続ける健康の性質にも適しているでしょう。

生命・医療保険にリンクしたバリューチェーン全体を考えてみると、資金面や生活状況の変化による影響が出てきます。そこで何ができるのでしょうか。

車に付随する様々な機能やオプションがあるように、保険商品は消費者にとって”複雑すぎる”ことも事実です。我々の業界はこれを改善するような変化をもたらすことができるのでしょうか。妥協は必要ですが、データとデータ分析/予測モデリングがそれを可能にします。例えば、PartnerReには強力な データアナリストチームがあり、倫理的配慮と基準を十分に考慮して仕事をしており、被保険者の変化するニーズを満たすための革新的で新しい生命・医療保険商品を、我々のクライアントが提供するのを支援しています。

この記事はアヒム・レーゲナウアー博士の意見と、2020年12月にジュネーブ協会により出版された“Digital Health, Is the euphoria justified?”の発行ために行われた議論と編集 に基づいて、PartnerReのサラ・トーマス博士によりまとめられたものです。

編集者:PartnerRe、サラ・トーマス博士

ここに記載されている意見は、あくまでも筆者個人の見解です。この記事は一般的な情報・教育・ディスカッションのみを目的としています。法的または専門的なアドバイスを構成するものではなく、PartnerReまたはその関連会社の立場・意見・見解のすべてまたは一部を必ずしも反映するものではありません。

Get in touch