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がんの標的治療 – 個別化医療への道

がんに関する保険記事を4回に分けて紹介するシリーズの第3弾として、今回はがんの標的治療の概要およびそれが生命保険・医療保険会社に与える影響について、チーフメディカルオフィサーのアヒム・レーゲナウアー博士の解説をご紹介します。がんの標的治療とは患者の予後を改善し、個別化医療をより身近なものとする革新的で新しいがん治療法の総称を意味します。

本コンテンツは簡潔な箇条書きのフォーマットで解説されておりますので、複雑な医学的説明を読み解いたり、センセーショナルな見出しを解釈したりする必要はありません。

また、アジア太平洋・ライフ&ヘルス・クライアントソリューション開発責任者のブライス・シェパードが、生命保険および医療保険業界がこれらの変化にどのように対応していけばよいかについて、市場に関する貴重な洞察とソリューションを解説しています。

がんの標的治療法とは?

  • がん細胞は体の免疫システムから隠れる能力を持っています。がんの標的治療はさまざまな経路を介してこの免疫系の「ブレーキ」を取り除き、抗腫瘍免疫応答の誘発を通じてがんを克服する可能性を秘めています。
  • がんの標的治療とは免疫療法・モノクローナル抗体・CAR-T細胞療法・インターフェロン・低分子化合物・がんワクチンなどを用いたスマートながん治療を総称したものです。
  • 一般的な定義はなく「免疫療法」や「がんの生物学的療法」と同じ意味で使われています。

何が新しい?

  • 何十年もの間、従来の抗がん剤治療戦略は、手術や化学療法、放射線療法でした。化学療法剤は健康な細胞も殺してしまうため、忍容性が低くなりがちです。
  • 多くの異なるがんの標的治療による奏効率は、特定の治療法やがんの種類に応じて、化学療法よりもはるかに高く、毒性も低く、生存期間も数年とはいかないまでも数週間から数ヶ月に伸びました。
  • いくつかのタイプのがんでは、転移[1]さえも免疫治療薬で除去することができました。転移がんは通常、避けられない死を意味するため、これは重要な進展です。

期待されるさらなる進歩

  • 手術、化学療法、放射線療法に次いで、がん治療の第4の柱として登場するのが、がんの標的治療です。いくつかのがんでは、すでに手術に次いで最も成功した治療法となっています。
  • 免疫療法で治療可能ながんのサブタイプが徐々に拡大し、一次治療としても利用されるようになりました。
  • リキッドバイオプシー検査(簡単な血液検査で早期診断が可能[2])の開発は、新しいがんの標的治療薬の開発と密接に関係しています。2011年には20種類しかなかったバイオマーカー検査後のがん標的治療薬が、現在では80種類近く使用されています[3]。
  • mRNA COVIDワクチンの成功を受けて、既存のがんに対するmRNAワクチンの開発にも期待が寄せられており、すでに最初の臨床試験が行われています。
生命保険・医療保険会社の課題と機会

個別化医療への移行はエキサイティングで重要な進展であり、がん患者に治療結果の改善、さらには回復に向けた新たな医療の選択肢を提供するものです。一方で、生命保険業界には機会と課題があります:

ビジネス機会は、がんの標的治療をより身近で手頃なものにするため、生命保険会社がどのように商品の再設計やサービスを取り入れるかという点にあります。これが実現すれば治療の成功率が向上し、重度のがんの発症が減少するため、顧客にとって保障商品の価値が高まり、(適切な給付設計により)保険会社のコストも削減されるはずです。

一方、課題もあります。それは新しい薬や治療法の登場や、それらが既存の商品定義に与える影響によるトレンドレベルの不確実性から展開される課題です。医薬品が承認されると、当然のことながらその利用可能性のために保険金請求が急増します。ここで、商品の持続可能性を確保しつつ、常に変化する利用可能な治療法のリストを組み込んで給付を設計するという課題が発生します。

がんの標的治療薬の進歩と市場での承認の速さに伴い、医療の進歩、商品および価格の改定の間の整合性を維持するために、すべての開発状況を注視する必要があります。詳細は以下のセクションをご覧ください。

 

生命保険・医療保険会社への影響予測

  • 多くのがん種で死亡率が改善していることから、がんに対するアンダーライティングの見直しを注意深く行う必要があります。さらに、増え続けるがんのサブタイプ(分子ベース)ごとの予後の違いを反映するためには、より深い差別化が必要となります。
  • 死亡率が大幅に改善されたことにより、過去の経験に基づき(アジアにおける)重大疾病保険の価格設定を定期的に見直す必要があります。
  • がんの標的治療の恩恵を受けることができる患者に対し、急激に増えるコストプロファイルと、より密接に連携した革新的な商品を提供する新たな機会となります。
  • (医療保険に影響する)多数のがんの種類とサブタイプに対する高額な治療費が発生します。
  • 医療費補助保険は給付制限がなければ維持できなくなる可能性があります。
  • 末期の重大疾病系商品は再評価が必要です。
治療を受けるためのコストの障壁を下げる製品設計

新しい治療法が普及するには時間がかかりますが、その分コストも高く、多くの人にとっては手の届かないものとなっています。

新しいがん保険・がん商品を設計することで、コストの障壁を下げることはできないだろうか?これこそが(再)保険の役割であり、協力し、リスクを分散し、そして持続可能性と手頃な価格を確保することもその役割に含まれます。

PartnerReは標的治療をカバーするための独自の定義を開発することで、新たな展開を図っています。このソリューションについての詳細は弊社までお問い合わせください。

 

最先端の技術

  • がんの標的治療、ここでは特に免疫療法は、基礎科学の領域を超えています。研究開発のパイプラインにある新薬の総数は2020年には約3,500種類に達しており、2015年から75%も増えています。
  • 過去15年間でFDAは150種類以上の新しい抗がん剤を承認していますが[4]、そのほとんどが特定の遺伝子変異を持つがんに対するものです。しかし、
    • 免疫療法に反応するのは一部の患者(約10~30%)に限られ、誰が効果を発揮し、誰が効果を発揮しないかを予測することはできません。
    • 免疫療法が効かないがん患者が多数存在する可能性があります。
  • 新しい抗がん剤の開発と並行して、化学療法や他の標的抗がん剤との併用療法が臨床試験で広く研究されています。

今後10年の予測

  • がんの標的治療は今後10年間で極めて重要な影響を及ぼす技術となる可能性を秘めており、これまでよりもさらに大幅な死亡率の改善をもたらす可能性が高く、がん治療の体系的な改善が期待されます。
  • ゲノミクスは大きな可能性を秘めていますが、新たな次元の複雑性を伴います。これにより保険会社は医学や腫瘍学の専門知識を必要とすることになるでしょう。
手頃な価格で魅力的な、持続可能性・将来性のある製品の提供

明るい未来に向け、新しい治療法がいつ、誰に、いくらで提供されるかは未知数であることを認識し、未知数に対応した(将来に備えた)商品作りに努めることが重要であると考えています。

保険業界が果たす重要な役割のひとつは、医療の進歩を社会に浸透させることです。これは情報に基づいて治療や重症度の給付を継続的に再設計することで、商品が顧客にとってより適切なものとなり、イベント、金銭的支出、給付の間の整合性を維持することができるからです。

PartnerReは商品のイノベーションに関して優れた実績を持っています。私共はこのような進歩のための商品設計をすでに進めており、このような将来を見据えた商品のアプローチが顧客に評価されると確信しています。

私共は最新の治療法に関して知識の深いグローバルな医療専門家を有しており、このチャレンジに期待を寄せています。皆さまと共に解決策を導いていけることを願っております。

 

この概要が皆さまのお役に立てば幸いです。

次回は「4部:がん医療の新たな展開を促す腫瘍ゲノム解析 」と題しまして、ゲノム解析がいかに医師の診断を向上させ、患者に適した薬剤や治療法、臨床試験を特定するための重要な手段であるかについてご紹介します。

筆者

Achim Regenauer, Chief Medical Officer, Life & Health
Bryce Shepherd, Head of Capabilities Development, Life & Health, APAC

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私どものアプローチは、専門知識の共有ならびにクライアントの成功を創造するというパートナーシップをベースとしています。今後、具体的なソリューションへと繋いでいけるよう、ご意見を頂戴できますと幸いです。

この記事は、一般的な情報提供、教育、議論のみを目的としています。また、PartnerReまたはその関連会社の企業姿勢、意見、見解の全部または一部を必ずしも反映するものではありません。
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